空間図形第 4 回

多面体

はじめに

空間図形の最後に,多面体について学びます。 正多面体やオイラーの多面体定理について理解しましょう。

目次

多面体

多面体とは,いくつかの平面で囲まれた立体のことです。 直方体や四面体など,小学生の頃から色んな多面体を学習してきました。

一方,円錐や球は多面体ではありません。 平面のみならず,曲面を含む立体だからですね。

次のような立体も多面体です。 平面に囲まれてできていますね。

このように凹みのない立体を凸多面体といいます。 次のように凹みがある立体は凹多面体といいますが,学校ではあまり扱いません。

ここでも主に凸多面体について考えることにします。

オイラーの多面体定理

凸多面体の頂点(vertex),辺(edge),面(face)の数について,次の定理が成り立ちます。

オイラーの多面体定理

凸多面体の頂点の数を\(v\),辺の数を\(e\),面の数を\(f\)とすると,次の等式が成り立つ。

\( \begin{align} v - e + f = 2 \end{align} \)
補足 凹多面体では?

オイラーの多面体定理は,凹多面体でも穴さえ開いていなければ成り立ちます。 しかし,凹多面体はあまり扱われないので,気にしなくても良いかと思います。

定理の内容が,高校では習わないグラフ理論から来ているので,証明は省略されることが多いです。

グラフ理論は,複雑な数式でゴリゴリ進めるものではないので,中学生でも学べば理解できる部分も多いです。 しかし,いろいろ予備知識の導入が必要なのも事実なので,ここではざっくりした証明だけ見てみましょう。

例として次のような多面体を考えます。

この多面体では,\(v = 8\)\(e = 12\)\(f = 6\)ですから,確かに\(v - e + f = 2\)が成り立ちます。

しかし,もちろん\(1\)つの多面体に対して確認しただけでは,定理を証明したことにはなりません。 この例を手掛かりに,もっと一般化して考えましょう。

まず,立体のまま考えるのは大変なので,情報を平面の世界に落とし込みます。 そのために,次のように面を\(1\)つ取り除いてみます。

分かりづらいかもしれませんが,上の面を取り除きました。 面を\(1\)つ除いたのですから,\(v - e + f = 1\)を示すのが今後の目標です。

ここで考えたいのは,頂点,辺,面の数だけですから,その数さえ変わらなければ,辺や面を伸び縮みさせても構いません。 そこで上の図を「開いてぺたんと広げる」ことで,次図のように平面に落とし込めます。

この図は,先ほどの図と頂点,辺,面の数が変わりません。 つまり立体のときの情報を残したまま,平面の問題に置き換えたのです。 この図で\(v - e + f = 1\)を証明すれば良いですね。

補足 面の除去

先ほど多面体の面を\(1\)つ取り除いたのは,このように多面体を開くためだったのでした。

さて,確認したいのは\(v - e + f\)の値が\(1\)になることなのですが,少し工夫が必要です。 まず,面を取り囲む辺を\(1\)つずつ除いていきます。

なぜそんなことをするのか? それは,この操作によって,辺と面がちょうど\(1\)つずつ減るからです。 まず次図を見てください。

この図は左端の辺を除いたものですが,確かに左側の面も\(1\)つ無くなっています。 次のような場合も見てみましょう。

この図はある面と面の間の辺を除いたものですが,\(2\)つの面が合体して\(1\)つになっています。 つまり,この場合でも面が\(1\)つ減っているのです。

さて,この操作で大事なのは,\(e\)\(f\)\(1\)ずつ,つまり同数減ることです。 このとき,\(v - e + f\)の値は変わりませんね。 この操作によって,辺,面を減らし,よりシンプルな形にできるのです。

この操作を面の数だけ繰り返せば,ついに面はなくなります。 そして\(v - e + f\)の値は変わらず維持されています。

補足 \(e\)\(f\)

当然ですが,面は辺に囲まれてできているので,\(e > f\)です。 したがって,面がなくなるまで,辺を除く操作を繰り返すことが確実にできます。

面がすべてなくなれば,\(f = 0\)になるので,後は\(v - e = 1\)を確認すれば良いことになります。 先ほどの図で最後まで操作を行ったのが,次図です。 (どの辺を除いたかで形は変わります。)

面がないということは,辺で囲まれた領域が存在しないということです。 つまりこの段階で,この図はいくつかの枝で出来た「枝分かれ」になります。

次は枝の末端から「頂点と辺のペア」を除いていきます。 当然\(v - e\)の値は維持され,変わりません。

試しに先ほどの図からペアを\(1\)つ除くと,次図のようになります。

辺の両端には頂点がありますから,当然\(v > e\)です。 したがって,辺がなくなるまでこの操作を繰り返すことができます。 もちろん,\(v - e\)の値は維持されたままです。

先ほどの図が「枝分かれ」であったことを思い出すと,枝を末端からカットしていくことで,最終的には根元の\(1\)点だけが残ることが分かります。 つまり\(v = 1\)です。

以上の議論から,元の多面体から面を\(1\)つ除いた図形において,\(v - e + f = 1\)が成り立つことが分かり,オイラーの多面体定理の成立が確認できました。

補足 オイラーの定理

ざっくりした箇所については,グラフ理論の本などで「オイラーの定理」の証明を確かめてみてください。

補足 凹多面体では?

上の議論は,「穴の開いていない」凹多面体についても成り立つことが分かります。 穴が開いていなければ,同じように面を\(1\)つ除いて,平面化できるからです。

正多面体

正多面体とは,次の条件を満たす凸多面体のことです。

  1. すべての面が合同の正多角形である。
  2. 各頂点に集まる面の数が等しい。

つまり,かなり対称的な形の多面体ですね。 次の正四面体(正三角錐),正六面体(立方体)はよく知っていますね。

正多面体にどんなものがあるのかを考えるには,まず次の多面体の性質を知っておくと良いです。

多面体の性質

多面体の\(1\)つの頂点に集まる面・角について,次が成り立つ。

  1. \(3\)つ以上の面が集まる。
  2. 凸多面体の場合,集まる角の大きさは合計\(360^{\circ}\)未満である。
補足 性質の理由

\(1\)つめの性質は良いですね。 もし頂点に集まる面が\(2\)つだけなら,面で囲まれた空間を作ることはできません。 面を曲げてしまえば出来そうですが,曲面を使ったものを多面体とは言いません。

\(2\)つめの性質については,その頂点に掌を当てて,多面体を潰すのをイメージしてください。 多面体は潰れ,頂点の周りの面が平面状に広がります。

このとき,必ず頂点の周りの平面には「隙間」が出来るはずです。 隙間がなければ,改めて面を立体状に折ったとき,面同士が重なってしまい,多面体に戻せないのでおかしいです。 隙間があるということは,角度の合計が\(360^{\circ}\)未満なのです。

\(N\)角形の\(1\)つの内角の大きさは\(180^{\circ} \times \displaystyle\frac{N - 2}{N}\)です。 表にすれば次の通りですね。 角が増えれば,内角も大きくなるのです。

正多角形 \(1\)つの内角
正三角形 \(60^{\circ}\)
正四角形 \(90^{\circ}\)
正五角形 \(108^{\circ}\)
正六角形 \(120^{\circ}\)

正多面体の性質より,\(1\)つの頂点には最低\(3\)つの面が集まります。 さらにそれらの内角を\(1\)回ずつ足すと,\(360^{\circ}\)未満になるはずです。

したがって,正多面体の面として相応しいのは,正三角形,正四角形,正五角形だけです。 正六角形以上だと,内角\(3\)つで\(360^{\circ}\)以上になってしまうからです。

面が正三角形である多面体は,頂点に集まる正三角形が\(3\)つ,\(4\)つ,\(5\)つの場合の\(3\)パターンです。 それぞれ頂点に集まる角度の合計が\(180^{\circ}\)\(240^{\circ}\)\(300^{\circ}\)であり,凸多面体の性質を満たしますね。

同様に考えると,面が正四角形,正五角形である多面体は,頂点に集まることの出来る面の数が\(3\)しかありえません。 以上から,正多面体は\(5\)種類しか存在しないのです。

頂点に集まる面数
正三角形 \(3\)
正三角形 \(4\)
正三角形 \(5\)
正四角形 \(3\)
正五角形 \(3\)

それぞれの場合で,どんな多面体ができるのでしょうか? 例えば,正三角形が\(1\)つの頂点に\(5\)つ集まる場合を考えます。 このとき,\(1\)つの頂点に集まる辺の数も\(5\)です。

補足 集まる辺の数

頂点を真上から見た図をイメージしてください。 頂点の周りに\(5\)つの面があるのなら,辺の数も\(5\)つであることが分かります。

したがって,頂点の周りに集まる辺を合計すると,\(5v\)本になります。 もちろんこれは,同じ辺を何回か重複して数えたものです。

どれくらい重複して数えたかというと,辺の両端に頂点があることを考えると,\(2\)回ずつカウントしてしまっていることが分かります。 したがって,次が成り立ちます。

\( \begin{align} \displaystyle\frac{5v}{2} = e \end{align} \)

また,重複して数えた辺の数\(5v\)は,面を囲む辺として活用されます。 面は三角形ですから,\(3\)本で\(1\)つの面になるので,次が成り立ちます。

\( \begin{align} \displaystyle\frac{5v}{3} = f \end{align} \)

これらをオイラーの多面体定理の式に当てはめると,\(v\)が求められます。

\( \begin{align} v - e + f &= 2 \\[5pt] v - \displaystyle\frac{5}{2}v + \displaystyle\frac{5}{3}v &= 2 \\[5pt] \displaystyle\frac{1}{6}v &= 2 \\[5pt] v &= 12 \end{align} \)

これで\(e\)\(f\)も求められます。

\( \begin{align} e &= \displaystyle\frac{5}{2}v = 30 \\[5pt] f &= \displaystyle\frac{5}{3}v = 20 \end{align} \)

以上から,この図形は\(20\)の面を持つ正二十面体であることが分かりました。 同様に考えると,他の正多面体の正体も分かります。

正多面体 頂点に集まる面数
正四面体 正三角形 \(3\)
正八面体 正三角形 \(4\)
正二十面体 正三角形 \(5\)
正六面体 正四角形 \(3\)
正十二面体 正五角形 \(3\)

というわけで,正多面体は以上の\(5\)種類だけであることが分かりました。


以下,各正多面体の見た目を紹介しておきます。

■ 正四面体

■ 正六面体

■ 正八面体

■ 正十二面体

■ 正二十面体

確認問題

正多面体の頂点,面,辺の数\(v\)\(e\)\(f\)について,次の表を埋めてください。

正多面体 \(v\) \(e\) \(f\)
正四面体 正三角形 \(\) \(\) \(4\)
正六面体 正四角形 \(\) \(\) \(6\)
正八面体 正三角形 \(\) \(\) \(8\)
正十二面体 正五角形 \(\) \(\) \(12\)
正二十面体 正三角形 \(\) \(\) \(20\)
答え

\(v\)\(e\)という\(2\)つの未知数がありますから,オイラーの多面体定理の式以外にも,もう\(1\)つ方程式が必要です。 順番に考えていきましょう。

  1. 面が三角形なので,面の周りの辺が合計\(3f = 12\)本あります。 辺は\(2\)つの面に挟まれているので,次が成り立ちます。

    \( \begin{align} e = \displaystyle\frac{12}{2} = 6 \end{align} \)

    あとはオイラーの多面体定理を使えば,\(v\)が求められます。

    \( \begin{align} v - e + f &= 2 \\[5pt] v &= 2 + e - f \\[5pt] &= 2 + 6 - 4 \\[5pt] &= 4 \end{align} \)
  2. 面が四角形なので,面の周りの辺が合計\(4f = 24\)本あります。 辺は\(2\)つの面に挟まれているので,次が成り立ちます。

    \( \begin{align} e = \displaystyle\frac{24}{2} = 12 \end{align} \)

    あとはオイラーの多面体定理を使えば,\(v\)が求められます。

    \( \begin{align} v - e + f &= 2 \\[5pt] v &= 2 + e - f \\[5pt] &= 2 + 12 - 6 \\[5pt] &= 8 \end{align} \)
  3. 面が三角形なので,面の周りの辺が合計\(3f = 24\)本あります。 辺は\(2\)つの面に挟まれているので,次が成り立ちます。

    \( \begin{align} e = \displaystyle\frac{24}{2} = 12 \end{align} \)

    あとはオイラーの多面体定理を使えば,\(v\)が求められます。

    \( \begin{align} v - e + f &= 2 \\[5pt] v &= 2 + e - f \\[5pt] &= 2 + 12 - 8 \\[5pt] &= 6 \end{align} \)
  4. 面が五角形なので,面の周りの辺が合計\(5f = 60\)本あります。 辺は\(2\)つの面に挟まれているので,次が成り立ちます。

    \( \begin{align} e = \displaystyle\frac{60}{2} = 30 \end{align} \)

    あとはオイラーの多面体定理を使えば,\(v\)が求められます。

    \( \begin{align} v - e + f &= 2 \\[5pt] v &= 2 + e - f \\[5pt] &= 2 + 30 - 12 \\[5pt] &= 20 \end{align} \)
  5. 面が三角形なので,面の周りの辺が合計\(3f = 60\)本あります。 辺は\(2\)つの面に挟まれているので,次が成り立ちます。

    \( \begin{align} e = \displaystyle\frac{60}{2} = 30 \end{align} \)

    あとはオイラーの多面体定理を使えば,\(v\)が求められます。

    \( \begin{align} v - e + f &= 2 \\[5pt] v &= 2 + e - f \\[5pt] &= 2 + 30 - 20 \\[5pt] &= 12 \end{align} \)

以上から,表は次のように埋まります。

正多面体 \(v\) \(e\) \(f\)
正四面体 正三角形 \(4\) \(6\) \(4\)
正六面体 正四角形 \(8\) \(12\) \(6\)
正八面体 正三角形 \(6\) \(12\) \(8\)
正十二面体 正五角形 \(20\) \(30\) \(12\)
正二十面体 正三角形 \(12\) \(30\) \(20\)

\(1\)つの頂点に\(3\)つの正五角形が集まる正多面体が,正十二面体であることを証明してください。

答え

この正多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれ\(v\)\(e\)\(f\)と表します。

\(1\)つの頂点に\(3\)つの面が集まるということは,その頂点に集まる辺の数も\(3\)です。 したがって,重複を許すと,辺は全部で\(3v\)本あります。

辺の両端に頂点があることを考えると,この本数は,各辺が\(2\)回ずつ数えられたものです。 したがって,次が成り立ちます。

\( \begin{align} \displaystyle\frac{3v}{2} = e \end{align} \)

また,重複を許して数えた辺は各面(正五角形)を囲む辺として使われますから,次が成り立ちます。

\( \begin{align} \displaystyle\frac{3v}{5} = f \end{align} \)

以上から,オイラーの多面体定理より,次のように\(v\)が求められます。

\( \begin{align} v - e + f &= 2 \\[5pt] v - \displaystyle\frac{3}{2}v + \displaystyle\frac{3}{5}v &= 2 \\[5pt] \displaystyle\frac{1}{10}v &= 2 \\[5pt] v &= 20 \end{align} \)

これで\(f\)も求められます。

\( \begin{align} f = \displaystyle\frac{3}{5}v = 12 \end{align} \)

したがって,この正多面体は,正十二面体です。