これまで事象と事象の関係など見てきましたが,今回は試行と試行の関係にも注目します。 例えば,「くじを何本も買うと当たる確率がどれくらい上がるか」を考えるには,試行を繰り返すということを考える必要があります。
目次
独立試行
これまで,試行は\(1\)回きりで考えてきました。 しかし,実際にはトランプでカードを繰り返し引くときなど,試行を何度も行う状況も考えられます。 このような複数の試行について考えるとき,試行が他の試行に及ぼす影響を考慮する必要があります。
どの試行も他の試行の結果に影響を与えないとき,これらの試行は独立であるとか,これらは独立試行であるとかいいます。
トランプでカードを引く試行を繰り返すとき,引いたカードを元に戻すようにすれば,これらの試行は独立です。 このような,取り出したものを元に戻す取り出し方を復元抽出といいます。
試行だけでなく事象にも独立の概念があります。 ただしその判定は,試行の場合ほど直感的にはできません。 数学Bで学ぶ内容となっています。
一応紹介だけしておくと,次が成り立つとき,事象\(\mathrm{A}\)と事象\(\mathrm{B}\)は互いに独立であるといいます。
次回学ぶ条件付き確率を使った定義もできますが,詳しくは数学Bで解説することにします。
今回は独立試行について考えていくのですが,独立でない試行の例も見ておきます。
トランプでカードを引く試行を繰り返すとき,引いたカードを戻さなければ,次の試行のときにはカードが\(1\)枚減っています。 初めの試行が次の試行に影響を及ぼしているわけですから,これらの試行は独立ではありません。
このように試行\(\mathrm{T}_1\)の結果が試行\(\mathrm{T}_2\)に影響を与えるとき,試行\(\mathrm{T}_2\)の事象の確率は,試行\(\mathrm{T}_1\)の結果を考慮して計算する必要があります。 これを考えるのが,次回学ぶ条件付き確率です。
独立試行の確率について考えるために,次の問題を解いてみましょう。
太郎君は着る服の色をランダムに選びます。 トップスは赤・緑・青・黄から選び,ボトムスは白・黒・灰から選びます。 太郎君は色の相性などを気にしないので,トップスの色の選び方とボトムスの色の選び方は独立であるとします。
太郎君が黄以外のトップスと白か黒のボトムスを選ぶ確率はいくつでしょうか?
確率を求めるためには,まず場合の数を求める必要があります。 トップスの色は\(4\)通り,ボトムスの色は\(3\)通りありますから,トップスとボトムスの組み合わせは,全部で\(4 \times 3 = 12\)通りあります。 これが全事象です。
その内,黄以外のトップスと白か黒のボトムスを選ぶ場合は,\(3 \times 2 = 6\)通りあります。 条件に合うトップスの選び方が\(3\)通り,ボトムスの選び方が\(2\)通りあるからですね。 したがって,その確率は次の通りです。
ところで,この左辺を見て何か気づきませんか? 左辺を次のように書き直してみてください。
これは,太郎君が「黄以外のトップスを選ぶ確率」と「白か黒のボトムスを選ぶ確率」の積になっていますね! このことは,たまたま成り立ったわけではありません。 独立試行の確率について,次が成り立ちます。
独立試行\(\mathrm{S}\),\(\mathrm{T}\)をまとめて考えるとき,試行\(\mathrm{S}\)では事象\(\mathrm{A}\)が,試行\(\mathrm{T}\)では事象\(\mathrm{B}\)が起こる確率は,次の通りになる。
どうしてこれが成り立つかは,太郎君の具体例を見れば分かると思いますが,補足で説明しておきます。
確率は事象の場合の数から計算しましたね。 分母は全事象,分子は考える対象の事象です。
つまり\(2\)つの試行を組み合わせた確率を考えるには,\(2\)つの事象を組み合わせて考える必要があります。 その場合の数は,\(2\)つの場合を組み合わせるわけですから,積の法則の通り,それぞれの事象の場合の数の積で求められます。
その結果,組み合わせ後の確率は,組み合わせ前のそれぞれの確率の積となります。 ざっくりいえば,「組み合わせ」から積の形が出てくるわけですね。
同様の式が,\(3\)つ以上の独立試行についても成り立ちます。 しかし,試行が独立でない場合は,この計算を適用できませんので,十分に注意してください。
反復試行
さいころを振る試行,コインを投げる試行,復元抽出などは,繰り返し行うことができ,繰り返した試行は独立です。 このような独立試行の繰り返しを反復試行といいます。
次の問題を考えてみましょう。 反復試行について考えるものです。
さいころを\(1\)回振った時,\(1\)の目が出る確率は\(\displaystyle\frac{1}{6}\)です。 なのでさいころを\(6\)回振れば,\(1\)回くらいは\(1\)の目が出そうな気がします。
実際,さいころを\(6\)回振ったとき,少なくとも\(1\)回は\(1\)の目が出る確率がいくつなのか,求めてください。 ついでにちょうど\(2\)回だけ\(1\)の目が出る確率も求めてください。
まず,少なくとも\(1\)回は\(1\)の目が出る確率を求めます。 「少なくとも~」は考えづらいので,その余事象である「\(1\)回も\(1\)の目が出ない」確率を先に求めます。
\(1\)回も\(1\)の目が出ないとき,\(6\)回の試行全てで\(1\)以外の目が出ています。 これらは独立試行であり,各試行で\(1\)以外の目が出る確率は\(\displaystyle\frac{5}{6}\)ですから,その確率は次の通りになります。
同じ確率\(6\)つの積ですから,累乗の形になっています。 したがって,少なくとも\(1\)回は\(1\)の目が出る確率は,次の通りになります。
この値は大体\(\displaystyle\frac{2}{3}\)くらいですね。 ある目を出すためにさいころを\(6\)回振っても,目当ての目が必ず出るとは期待できなさそうです。
次はちょうど\(2\)回だけ\(1\)の目が出る確率を求めます。 \(1\)の目が\(2\)回,\(1\)以外の目が\(4\)回出る場合の確率ですね。
各試行で\(1\)の目が出る確率は\(\displaystyle\frac{1}{6}\),\(1\)以外の目が出る確率は\(\displaystyle\frac{5}{6}\)です。 これらは独立な試行ですから,そのような目の出方をする確率は,次のようになりそうです。
しかし,これは間違いです。 この計算では,「どの試行で\(1\)の目が出るか」を考慮できていないからです。
その「\(1\)の目の出方」は,\(6\)回の試行の内どの\(2\)回で\(1\)の目が出るかを考えれば,\({}_6\mathrm{C}_2\)通りあると分かります。 そのそれぞれの場合が起こる確率が,先ほど求めた確率なのです。
そしてそれぞれの「\(1\)の目の出方」は同時には起こらない,つまり排反ですから,結局\(1\)の目がちょうど\(2\)回出る確率は,次の通りになります。
同じ確率\({}_6\mathrm{C}_2\)個の和ですから,\({}_6\mathrm{C}_2\)を掛けています。
これで問題を解くことができました。 この議論を一般化しておくと,次が成り立ちます。
\(1\)回の試行で事象\(\mathrm{A}\)が起こる確率を\(p\)とする。 この試行を同条件で\(n\)回繰り返すとき,ちょうど\(r\)回だけ事象\(\mathrm{A}\)が起こる確率は,次の通りになる。
この式を覚える必要は一切ありません。 試行の独立,事象の排反を理解していれば,自然と導き出せる式です。 しかし独立と排反は混乱しやすいところでもありますから,次項でもう少し確認しておくことにしましょう。
独立と排反
反復試行を考えるのに,試行の「独立」や事象の「排反」を利用しました。 初学者はこの\(2\)つの概念に混乱しがちですから,ここで改めて説明し直しておきます。
独立試行と排反という言葉は,そもそも使う対象に違いがあります。 独立試行は試行に対して使う言葉で,排反は事象に対して使う言葉です。
試行の独立とは,今回初めにも説明した通り,試行と試行の「お互いに影響を与えない」関係です。 独立試行を考えるとき,特定の事象の組み合わせが起こる確率は,各試行でその事象が起こる確率を掛け合わせれば求められます。
この\(\mathrm{A}\),\(\mathrm{B}\),\(\mathrm{C}\),…は独立な異なる試行における事象を表します。 これは事象の「組み合わせ」なので,その場合の数は積の法則で求められ,上の式は確率の積の形となるわけです。
排反とは,ここでも説明した通り,事象と事象の「同時には起こらない」関係です。 排反事象を考えるとき,それらの事象のいずれかが起こる確率は,それぞれの事象が起こる確率を足し合わせれば求められます。
この\(\mathrm{A}\),\(\mathrm{B}\),\(\mathrm{C}\),…は同じ試行における異なる事象を表します。 重複しない事象をあわせて考えるので,その場合の数は和の法則で求められ,上の式は確率の和の形となるわけです。
こうして見ると,独立・排反の説明では同じような記号が使われることも多く,混同することもあるかもしれませんが,記号の意味するところが違います。 よく見返して,両者の違いを理解しておきましょう。
確認問題
ここに変なさいころがあります。 これは不均一な作りで,\(1\),\(2\),…,\(6\)の目が出る確率が,次の比の通りになっています。
このさいころを\(2\)回振るとき,初めは偶数の目,次に奇数の目が出る確率を求めてください。
答え
\(6\)の目が出る確率を\(p\)とすると,\(1\)~\(6\)の目が出る確率は,この順に次の通りになります。
これがこの試行の全ての根元事象の確率であり,その和は全事象の確率である\(1\)になります。 したがって,次のように\(p\)が求められます。
したがって,\(1\)~\(6\)の目が出る確率は,この順に次の通りになると分かります。 後の計算の都合上,約分はしないでおきます。
\(2\),\(4\),\(6\)の目が出る事象は互いに排反ですから,偶数の目が出る確率は次の通りです。
\(1\),\(3\),\(5\)の目が出る事象は互いに排反ですから,奇数の目が出る確率は次の通りです。
さいころを\(2\)回振るとき,\(1\)回目に振る試行と\(2\)回目に振る試行は独立です。 したがって,初めに偶数の目,次に奇数の目が出る確率は次の通りです。
さいころを\(5\)回振り,出た目の和を考えます。 次の問いに答えてください。
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目の和が\(30\)になる確率を求めてください。
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目の和が\(29\)になる確率を求めてください。
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目の和が\(28\)になる確率を求めてください。
答え
さいころを振る試行を\(5\)回行うわけですが,これらの試行は独立です。 また,各試行では,どの目が出る確率も\(\displaystyle\frac{1}{6}\)です。 これらのことに注意しましょう。
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目の和が\(30\)になるのは,すべての試行で\(6\)の目が出る場合です。 その確率は,各試行が独立であることから,次の通りです。
\( \begin{align} \left(\displaystyle\frac{1}{6}\right)^5 = \textcolor{red}{\displaystyle\frac{1}{7776}} \end{align} \) -
目の和が\(29\)になるのは,\(6\)の目が\(4\)回,\(5\)の目が\(1\)回出る場合です。 どの試行で\(5\)の目が出るかのパターンは\({}_5\mathrm{C}_1\)通りありますから,目の和が\(29\)になる確率は次の通りです。
\( \begin{align} {}_5\mathrm{C}_1 \ \left(\displaystyle\frac{1}{6}\right)^4 \left(\displaystyle\frac{1}{6}\right) = \textcolor{red}{\displaystyle\frac{5}{7776}} \end{align} \) -
\(6\)の目が\(5\)回出ると,目の和が\(28\)を超えてしまいます。 \(6\)の目が\(2\)回しか出ない場合,目の和が\(28\)になるには,残り\(3\)回の試行で\(5\)以下の目だけで合計\(16\)になる必要がありますが,不可能です。
したがって,\(6\)の目が出る回数は\(4\)回か\(3\)回ですから,目の和が\(28\)になるのは,次のいずれかの場合です。
[1] \(6\)の目が\(4\)回,\(4\)の目が\(1\)回出る場合に目の和が\(28\)になります。 どの試行で\(4\)の目が出るかのパターンは\({}_5\mathrm{C}_1\)通りありますから,この場合の確率は次の通りです。
\( \begin{align} {}_5\mathrm{C}_1 \ \left(\displaystyle\frac{1}{6}\right)^4 \left(\displaystyle\frac{1}{6}\right) = \displaystyle\frac{5}{7776} \end{align} \)[2] \(6\)の目が\(3\)回,\(5\)の目が\(2\)回出る場合に目の和が\(28\)になります。 どの試行で\(5\)の目が出るかのパターンは\({}_5\mathrm{C}_2\)通りありますから,この場合の確率は次の通りです。
\( \begin{align} {}_5\mathrm{C}_2 \ \left(\displaystyle\frac{1}{6}\right)^3 \left(\displaystyle\frac{1}{6}\right)^2 = \displaystyle\frac{10}{7776} \end{align} \)[1],[2]の事象は互いに排反ですから,目の和が\(28\)になる確率は次の通りです。
\( \begin{align} \displaystyle\frac{5}{7776} + \displaystyle\frac{10}{7776} &= \displaystyle\frac{15}{7776} \\[5pt] &= \textcolor{red}{\displaystyle\frac{5}{2592}} \end{align} \)
さいころを\(5\)回振ったとき,\(1\)の目も\(6\)の目もそれぞれ\(1\)回は出る確率を求めてください。
答え
\(1\)の目,\(6\)の目が少なくとも\(1\)回は出る確率を考えるのですが,「少なくとも」というのは考えづらいです。 余事象を考えていくことにしましょう。
「\(1\)の目が少なくとも\(1\)回出て,かつ\(6\)の目が少なくとも\(1\)回出る」の余事象は,「\(1\)の目が\(1\)回も出ない,または\(6\)の目が\(1\)回も出ない」です。
\(1\)の目が\(1\)回も出ない事象を\(\mathrm{A}\),\(6\)の目が\(1\)回も出ない事象を\(\mathrm{B}\)としましょう。 先ほどの余事象は\(\mathrm{A} \cup \mathrm{B}\)です。 その確率は,次のように求められます。
これは題意の事象の余事象の確率ですから,題意の確率は次の通りになります。